Share

第九話 箏(そう)の演奏

last update Tanggal publikasi: 2026-05-31 05:56:37

 春宮が左大臣邸うち行啓ぎょうけいされた日の夜――

 コン、コン……。

 夜中に鳴き真似が聞こえてきた。

 コン、コン……。

 待ち兼ねたように建物の方から別の声がして、すぐに聞こえなくなる。

 おそらく、これから二人で過ごすのだろう。

 春宮も中の君に会えることを期待していたに違いない。

 きっと春宮は宴が早く終わらないかと、いらいらされてたでしょうね……。

 私は眠りについた。

 数日後――

 私(左大臣の大君の方)が縫い物をしていると北の対の方から怒鳴り合っているような声が聞こえて来た。

 一人はお母様のようだけれど……。

 私は北の対へ向かった。

「入内するのは大君です!」

 北の対へ近付くにつれてお母様の怒鳴り声がはっきり

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • 平安時代の悪役令嬢は婚約破棄します!   第十九話 物詣(ものもうで)

    「物詣?」 私(左大臣の大君の方)がトメに聞き返した。「殿が四十を迎えられた御礼参りだそうです」 物詣というのはお寺にお参りに行くことだが泊まり掛けなのだ。 外出することのない貴族の女性が外に出る数少ない機会である。 物詣は娯楽みたいなものだが願掛けや願いが叶ったお礼に行くこともある。 お父様は願いが叶ったというより長生きできたお礼のようなものだ(もしかしたら、ついでに私の入内が早く決まるように新しいお願いをするかもしれない)。 家族(お父様とお母様と私と妹達)で行くのだが当然乳母を始めとした侍女達も同行する。 当たり前だが、いきなり行くことは出来ない。 支度をしなければならないからだ(するのは侍女達だが)。 だから今すぐ出掛けるというわけではない。 それでも家中の者達が浮き立っているのが分かった。「物詣?」 私(少納言の大姫の方)は聞き返した。「伯母君が誘ってくれたそうです」 キヨが嬉しそうに言った。 少納言家はそれほど余裕があるわけではないから物詣に行かれる機会は滅多にない。 今回は伯母様が連れていって下さるから行かれるのだ。「お寺に泊まるの?」「いつ行くの?」 二の姫と三の姫が嬉しそうにキヨに訊ねる。 私と妹達は楽しみで毎日、物語そっちのけで物詣の話をしていた。 そうだ……! 思い出した……。 私(少納言の大姫)は物詣に行く途中で牛車に跳ねられたのだ。 だから、あのとき外にいたのだ。 物詣に行くところだったから――。 物詣に来た私(左大臣の大君の方)は道を歩いていた。 牛車は石段を上がれないので途中からは徒歩である。 この辺はまだ平らな道だが。 不意に後ろから悲鳴と|蹄《

  • 平安時代の悪役令嬢は婚約破棄します!   第十八話 雉子と孔雀

     深夜――「いかにせん 山で聞きつる 呼子鳥 春の宮へと おとづれんかな」 外から頼浮の声がした。 春宮が来たのだろう。もちろん中の君のところに。 忘れてましたけど今日のお客様方の中に春宮がいたんでしたわね。 宴が終わったから中の君に会いに来たのだ。 頼浮に――というか帝以外の人に春宮を追い返せるとは思えないが一応通していいか聞いてくれてるのだろう。 私は妻戸を軽く叩いた。 頼浮はすぐそこにいるはずだ。「春宮様は中の君のところに通して構わないって言ったはずよ」 私が小声で囁く。「春宮はお通ししたのですが少納言がこちらに向かっているのです」「よく招待したわね」 てっきり出入り禁止になったのかと思ってましたわ。「別の少納言です」 頼浮が私の考えを察して言った。 少納言というのは――というか各官職の長官以外はほとんどがそうなのだが――何人もいるのだ。 だから官職名の前に『何々の~』とつけて区別するのである。「二人は部屋を出たんでしょ」 中の君がいないのなら別に部屋に入られたところで構わない。「いえ、今日は中の君の母屋で……」「あら……」 つまりこのままだと春宮と少納言が鉢合わせしてしまうのだ。 だから私の判断を仰ぎに来たらしい。「…………」 私は考え込んだ。 これは使えるかも知れませんわ――。「いかがいたしますか?」「いいわ。少納言をそのまま行かせて」「……よろしいんですか?」 頼浮が驚いたように言った。 驚くくらいなら最初から追い返せばいいでしょうに。「春宮様と中の君が一緒にいるのを見たって少納言が言い触らしてくれれば入内させるしかなくなるでしょう」

  • 平安時代の悪役令嬢は婚約破棄します!   第十七話 悪だくみと計略

    「私は必要に迫られても詠めるかどうか……」 中の君が悩ましげに言った。「…………」 さすがにそれはそれで少々問題がある。 女性にとって楽器と歌は絶対に必要な教養なのだ。 殿方は苦手でもなんとかなるのだが女性は歌が出来ないと婿取りの時に困る。 最初のうちは親が代筆すると言っても最後には自分で懸想文に返歌をしなければならないのだ。 意味もなく詠むほどではなくても、必要に迫られて詠めないのはダメだろう。 特に入内したら何かと詠まなければならなくなるはずなのだ。 というか入内できなかったら貴族の婿を迎えることになるのに歌が詠めなかったら困りますわ! 数日後―― 朝早くに頼浮の歌が聞こえた。「君が振る 袖に触れにし 朝露は 我が涙をや 思ひおこせと」 後朝の歌(朝、恋人のところから帰ってから贈る歌)のようにも聞こえるが、おそらく『触れにし』と言いたいのだろう。 どうやらお父様が死穢に触れたらしい。 となると潔斎のために邸にいるはずだ。 私はお父様の元へ向かった。「お父様、今はまだ中の君の母君の喪中ではありませんの?」 私はお父様と御簾越しで向かい合って言った。「そうだが、お前には関係ないだろう」「お父様と中の君にはあるでしょう」「それはまぁ……」「私、心配ですわ」「姫様、気にしすぎですわ。怨霊なんて」 打ち合わせ通りトメが言った。「怨霊!?」 お父様が目を剥く。「そうね、そうかもしれないわね」 私がトメに答える。「どういうことだ!?」 思った通りお父様が食い付いてきた。 怨霊というのは恐れら

  • 平安時代の悪役令嬢は婚約破棄します!   第十六話 毒の草

     夕方、部屋に戻った私(左大臣の大君の方)はトメに今後、中の君宛の文は私に届けさせるようにと指示した。「北の方様のお耳に入ってしまったら……」「手習いや歌のお稽古で紙が沢山必要だと答えればいいわ」 字にしろ歌にしろ女御になるなら上手ければ上手いほどいいのだ。 勅撰和歌集というのは実力で選ばれる(帝以外)。 例え妃であろうと忖度では入れてもらえたりはしない。 にもかかわらず入集している妃は多い。 それくらい歴代の妃達は皆、優秀なのだ。 当然、私も次に勅撰和歌集が作られることになったときは一首くらいは入集できるような歌が作れる方がいいに決まっているのだから手習いや歌のお稽古に紙を沢山使うと言えばお母様は納得するはずだ。 帝にしても例外的に入れてもらえると言っても優れている歌だけだ。 どうしても自分の歌を勅撰和歌集に入れたくて、こっそり他の人の歌を抜いて自分の歌を入れてしまった帝がいるくらいである。 それを周りに知られてしまっているというのも中々恥ずかしいと思いますけど……。 まぁもう崩御されているからいいのですけど……。「姫君の亡き者にしたい誰かが蛇を箱に入れて送ってきたのです」 キヨが物語を読んでいた。「なんてひどい!」「怖いわ! 私、蛇嫌い!」 二の姫と三の姫が口々に言った。「蛇が失敗したと分かると今度は食事に毒を入れました。 毒を入れたのが自分だと分からないように全員の食事に混ぜたので邸の人間は皆、寝込んでしまいました。 幼かった一番下の妹君は助からず……」「なんですって!」 私(左大臣の大君の方)は大声を出して跳ね起きた。「姫様!?」 トメや他の女房達も飛び起きて集まってくる。「いかがされましたか!」

  • 平安時代の悪役令嬢は婚約破棄します!   第十五話 古今伝授の鳥と木

     私(左大臣の大君の方)は目を覚ました。 せっかく物語の夢を見たのに参考になりそうなことはありませんでしたわ。 箏のお稽古をしていた中の君の手が止まった。 中の君の箏の腕は上達しているものの、まだ人前で披露できるほどではない(あれからずっとお稽古していたんですのよ)。「やっぱり、私には……」「後! 落ち込むのは後にしましょう! そういうのは宴が終わってからにしないと間に合いませんわ!」 中の君はしょっちゅう落ち込んでは手が止まりそうになる。 だが落ち込んでいても手を動かさなければ間に合わない。 中の君の年なら習い始めて七、八年くらい経っていなければならない。 それが習い始めて二、三年の四の姫より下……上手くないとなると、ほとんどお稽古していなかったという事になる。 とても一月や二月の練習では……。 これでは中の君が恥をかいてしまう。 中の君の演奏は北の対にも聞こえているはずなのにお母様はやらなくていいとは言ってこない。 宴の席で中の君は箏が下……上手くないと周知されてしまったら中の君を入内させようと言い出せなくなる(言ったところで認めてもらえませんわ!)。 どうしましょう……。 とてもではないけれど四十の賀の宴で披露できる腕前ではない。 お稽古を続ければ上手くなりそうではあるから入内(出来るようになったとして)までにはなんとかなりそうなのだが宴には間に合いそうにない。 中の君が溜息を吐いた。「お姉様はなんでもお出来になるのですね。それに引き換え私は……」「お稽古しただけよ」 何しろ幼い頃から、いずれ入内するのだから妃として恥ずかしくないようにと一通りやらされてきた。 入内してすぐに中宮に|冊立《さ

  • 平安時代の悪役令嬢は婚約破棄します!   第十四話 その婚姻、邪魔させていただきますわ!

    「あなたの父君以外にですか?」 頼浮が答える。 左大臣は上司というと少し語弊があるのだが少納言より上というのはその通りだ。 左大臣は常設の官職の中では一番上なのである。 摂政、関白、太政大臣は左大臣より上ですけど臨時なので必ずいるわけではありませんのよ(今は太政大臣は置かれていますけど)。 私は頼浮に、物語の主人公が上司の呼び出しで女性の元に行かれなかった物語の話をした。「お父様が娘の婚姻の晩に宴に呼んだりするわけないでしょ」 というか、宴だと言って左大臣邸に呼ばれては困りますわ。「宴では嘘だと分かった時点で引き返してきてしまいますよ」 頼浮はそう答えてから何かを思い付いたように口を噤んだ。「……今夜来るのを止められなかったら明日、試してみます」「今夜は無理なのに明日ならなんとかなるの? 何か手があるってこと?」「道に動物の死体を置いておきます」 死体は死穢といって見ると数日間、潔斎のため自宅にいなければならない。「そのための牛車でしょ」 牛車の中と外は別の空間だから死体の側を通っても死穢に触れたことにならないとされているのだ(見なければ、ですけど)。 貴族がいちいち牛車で移動する理由の一つはそれなのである。「そうはいっても死体は避けますから道を変えます。行く先々の道に置いておけば……」 死体を乗り越えていくわけではないのなら避けなければならない。 広い道ばかりではないのだから横を通れないのなら引き返して別の道を通る必要がある(牛車というのはちょっとした小屋くらいの大きさがあるので狭い道だと避けられないことがありますのよ)。 そのため上手く考えて通り道に置けばかなりの遠回りになる――朝までに左大臣家に着かないくらいの。「今夜は?」「牛車に細工します」 頼浮の言葉を聞いて任せることにした。

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status